プロジェクトストーリー

PROJECT STORY

自ら築いた市場さえも
覆したイノベーション。

J.O

Y.F

ハウスウェア商品DIV(東京)
グループマネージャー

K.A

H.A

第2事業営業企画DIV(東京)
グループマネージャー

ニッチマーケットでの絶対的No.1の獲得。ドウシシャのビジネスを語る上で欠かせない経営戦略の1つである。たとえ規模は小さくとも、自ら新しいマーケットを開拓していく姿勢こそが、ドウシシャマインド。その実例の1つが、2016年に爆発的にヒットした『電動ふわふわ とろ雪かき氷器』である。季節商品である家庭用かき氷器において、7割以上のシェアを獲得してきたドウシシャ。他社の追随を許さない絶対的ポジションを確立したマーケットであるが、成長の頭打ちという課題があった。「すでに市場は成熟してしまったのか」。この疑問を投げかけ、自ら作り出した業界の常識を覆した新たなチャレンジ。その最前線を担った2人の足跡を紹介する。

マンネリ化したかき氷器市場を打開する新たなプロジェクト。

「こんな価格設定で本当に売れるか?」。それが最初の感想だったと笑顔で語るY.F。ハウスウェア営業DIVの営業であった当時、商品部から説明を受けた新商品を目の前にして、驚きを隠せなかったと言う。ドウシシャが新たに家庭用かき氷器市場にリリースする新商品の価格は5,980円。平均価格2,000円前後のマーケットにおいて突出して高く、Y.Fたちが強気の価格設定に驚いたのも無理はなかった。

同じころ、商品プロモーションの担当者の間でも、新商品が話題にのぼっていた。「私たちが価格以上に注目したのは、従来のかき氷器とは一線を画した本格的な氷が削れる機能でした」(H.A)。プロモーション担当のH.Aは「ふわふわ食感」というキーワードに、大きな商機を見出したと語る。「当時、スイーツ市場でかき氷がブームとなってきていました。今までかき氷は屋台で食べるものでしたが、外でスイーツとして楽しむものに変わっていきました」。1つ1,500円のかき氷が飛ぶように売れている状況を冷静に分析したH.Aは、テレビや雑誌、SNSなどのメディアを利用したプロモーションに、人気の秘密があると読んでいた。今回の新製品プロモーションでも、販売戦略に大きな影響を与えることを予想していたと言う。

営業、プロモーションそれぞれの不安と期待が入り混じる中、2014年『電動本格ふわふわ氷かき器』は、家庭用かき氷器市場に、ふわふわの新食感を家庭で味わえる商品として発売が開始された。

市場が求めるニーズを形にしてこそ価値がある。

「高い!こんなの売れないよ!」。商談で得意先を訪れるたび、Y.Fは同じ言葉を投げかけられた。もちろん、その反応もあらかじめ予想できるものであったと言う。モノが売れない時代と言われる中、物価指数が下がり続け、さまざまなマーケットで価格破壊が進んでいた。過酷な価格競争はメーカーの商品開発力を衰えさせ、特色のある商品が市場から姿を消しつつあったのだ。

そうした市場環境の中でリリースされた今回の新商品は、圧倒的に独自性を放っていた。Y.Fは、この独自性こそがドウシシャ商品の魅力であり、閉塞感の漂うマーケットを打破する最善の手段であると考えていた。「価格競争をしてもダメなんです。市場は常に新しい何かを求めています。その何かを提案してこそ価値があるのです」(Y.F)。営業総出で、差別化された商品こそが市場の求めるニーズであることを説いて回り、販売店からの理解を得ていった。

一方、プロモーション担当のH.Aは、最小の予算で最大の広告効果が得られる方法として、積極的なニュースリリースを行っていた。自らメディアに働きかけ、新商品を家電評価雑誌や専門誌などで掲載してもらい、ユーザーからの注目を集める戦略であった。営業、プロモーションなどハウスウェア商品DIVの各メンバーたちによる精力的な活動の結果、『電動本格ふわふわ氷かき器』は発売初年度で5万3,000台の販売を記録。2万台売れればいいと言われる市場において、久々のヒット商品となった。この実績に確かな手ごたえを感じたハウスウェア商品DIVは、翌年さらなる新製品を投入する。

時流をとらえたプロモーションで状況を打開。

レトロな外観でありながら電動仕様だった前モデルから、デザインテイストをモダンに変えてリリースされたのが『電動ふわふわ とろ雪かき氷器』(以下、とろ雪)である。「ふわふわ食感」はそのままに、味付き氷を削った後に水洗いできるよう、各パーツが取り外せる機能が追加された。

H.Aはリリースのタイミングに合わせて、雑誌の編集部などメディア関連の会社に積極的なPR活動を図っていった。「最初はドウシシャという会社を説明するところからのスタートです。商品カタログと一緒に会社パンフレットを持参しました。とろ雪の特長を説明するには、食感の体験が一番でしたから、デモンストレーションをして興味を持ってもらえるよう工夫しながらPRしていきました」(H.A)。クーラーボックスに氷を携え、メディア各社に足を運ぶ毎日。テレビCMなどを使ったプロモーションを手掛けてきたH.Aにとっては、初めての経験だったと言う。

「プロモーションの課題は、いつも同じとは限りません。テレビCMが最も効果的な商品もあれば、情報媒体を使った方が効果の高い商品もあります。そして忘れてはいけないのが、時流をとらえることです。東京にオープンした台湾かき氷店は、休日には行列ができるほどの人気で、情報雑誌やSNS、TVでも取り上げられていました。それだけに、想定するターゲット層の注目を集めるには、同じメディアでのプロモーションが有効だったのです」(H.A)。多額の予算を投じることだけが、プロモーション成功の手段とは限らないことをH.Aの行動は証明していた。

常識にとらわれない姿勢こそドウシシャマインド。

「とろ雪は発売初年度で10万台を売り上げる記録的ヒット商品となりました。マンネリ化していた市場を見事に打開できたと言えるのではないでしょうか」(Y.F)。Y.Fが語るように、ドウシシャは自ら作り上げた家庭用かき氷器市場に鋭くメスを入れ、常識を覆す商品によってさらなる拡大に成功した。その後もとろ雪は新たな機能を加え進化しながら、売上記録を更新し続けている。

「とろ雪が多くのユーザーに受け入れられた結果、今ではテレビや雑誌などのメディアの方から、ドウシシャに新商品の情報がないかという問い合わせをいただくようになりました。一から会社紹介をしていたころから比べると、想像できないですね」(H.A)。とろ雪のヒットはドウシシャの知名度そのものの向上にも貢献し、その後の事業にも大きな影響を与えている。

だが、とろ雪の成功はあくまでも一例に過ぎない。ユーザーの志向性が多様化し、ヒット商品が生まれにくい時代にあって、常に新しい何かを見つけ、形にし、市場に普及させていくのがドウシシャの経営スタンスである。「時には、絶対的No.1にある自らのポジションさえも疑い、過去の前例や常識にとらわれない発想で市場を開拓していく姿勢は、ドウシシャの未来を担っていく若い世代にこそ知ってもらいたい」と、大きな期待を込めて、2人から次世代を担う人材へのメッセージを語ってくれた。